自分の持ち物に名前を刻む。革の端切れにロゴを焼く。子どもの描いた絵を木のコースターに転写する——そんな「ちょっとした加工欲」を満たすのに、かつては本格的な据え置き機が必要だった。
LaserPecker 2は、片手で持てるサイズのレーザー彫刻機としてその常識を壊しにかかった。2020年末のKickstarterで約6億円、続く2021年春のCAMPFIREで2億858万円(支援者1,889人)。キャンペーン終了から5年が経過した今、LaserPeckerは日本国内に体験拠点まで構える企業に成長している。あの2億円は、どこへ着地したのか。
プロダクト概要
LaserPecker 2(以下LP2)は、深圳のHingin Technology(嗨兴科技)が開発した5Wのガルバノメーター式レーザー彫刻機だ。ミラー反射でレーザーを高速に走査する方式で、最大600mm/sの彫刻速度と0.05mmの精度を実現する〔確認済〕。木材、革、紙、アクリル、陽極酸化処理された金属表面などに彫刻でき、条件付きで5mm厚までの切断にも対応する。スマートフォン(Bluetooth 5.0)またはPCから操作し、三脚に載せた本体がわずか数分で彫刻を仕上げる。
CAMPFIREでのキャンペーン価格は超早割のエントリーセットで79,990円、通常割引で84,300円。一般販売予定価格は105,900円と記載されていた。なお、同製品はKickstarterおよびIndiegogoでも先行してキャンペーンを実施しており、本稿ではCAMPFIREキャンペーン(2021年3月19日〜5月18日)に絞って検証する。
クリエイター・プロフィール
開発元のHingin Technologyは2017年に深圳で創業。初代LaserPecker Proから数えて、Kickstarter・Indiegogo・CAMPFIREを横断する「クラウドファンディング・シリアルランナー」だ。LP2のKickstarterでは約590万米ドル(約6億円、7,037人)、その後LP4でもKickstarterで約450万米ドルを調達している〔確認済〕。日本向けにはMotionSea Co., LimitedがPR TIMES経由でプレスリリースを発信し、LINE対応の日本語カスタマーサポートも整備。すべてのキャンペーンで製品出荷が確認されており、クラウドファンディング発のガジェット企業としては異例に堅実な実績を持つ。
市場背景
2021年当時、ポータブルかつガルバノ式のレーザー彫刻機は事実上LaserPeckerの独壇場だった。据え置き型のCO2レーザーやダイオード式フレーム機はあったが、三脚に載せてどこでも使えるサイズ感を実現した製品は他になかった。日本のDIY・ハンドメイド市場は拡大途上で、「レーザー彫刻」はまだ業務用のイメージが強い時代。LP2はそのニッチを突いた形だ。
5年後の現在はxTool F1やGenmitsu Jinsoku Z4などガルバノ式の競合が台頭し、LaserPecker自身もLP2 Plus(10W版)、LP4(デュアルレーザー)、LP5と世代を重ねている。LP2は現行ラインナップでは「エントリー寄りの旧世代機」という位置づけになった。
気になるポイント
素材対応の実態。キャンペーンページには「事実上すべてのものに彫刻できます」という表現が使われているが、これは技術的に不正確だ。LP2の光源は波長450nmの青色ダイオードレーザー(5W)。この波長帯では、金・銀・銅・アルミなどの裸金属は光エネルギーの大部分を反射してしまい、表面を削るのに必要なエネルギー密度に到達しない。LP2で「金属への彫刻」として紹介されている事例は、実際には陽極酸化処理やコーティング層を蒸発させているだけで、金属本体を加工しているわけではない。LaserPecker自身がこの限界を認識していたことは、後継機LP3で1064nm赤外線レーザーを、LP4ではデュアルレーザー構成を採用して金属対応を果たしたことからも明らかだ。Hackster.io(2021年1月8日)も「“engrave metal”という表記はやや不誠実」と指摘している。公式サイトには素材制限が明記されているが、CAMPFIREキャンペーンページ上では制限の記載が不十分だった。
アプリ評価の低さ。LP2専用Androidアプリ(Google Play)は★2.2と低評価で、2022年12月を最後に更新停止。後継のLaserPecker Design Spaceも★2.3にとどまる。M1 Macでのソフトウェア接続トラブルを報告するユーザー(note.com/minetti、2023年3月14日)もおり、ファームウェア更新で解消されたものの、ハードウェアの評判とソフトウェアの評判の落差が目立つ。
「応援購入」としての性質。LP2はCAMPFIREキャンペーン開始時点でKickstarterの出荷準備がすでに進行中だった。目標金額10万円という設定も、2億円規模になることが見込まれた販売チャネルの体裁にすぎない。これは不正ではないが、「まだ存在しないプロダクトを応援する」というクラウドファンディング本来の趣旨とは明らかに異なる。
支援者の声から見えるリアル。CAMPFIREの配送予定は2021年6月だったが、burin-engraving氏のブログ(2021年8月18日)には「約半年待って届いた」との記述があり、予定から約2か月の遅延が発生していたことがうかがえる。CAMPFIREコメント欄には99件以上の投稿があるが、支援者限定のため本調査では内容を確認できなかった。CAMPFIREの支援者によるレビューは確認できなかったため、以下は一般購入者・レビュアーの声である。Trustpilotでは野口雅樹氏(2025年2月)が「箱を開けてみると想像以上の工作精度で、この金額は安いと思いました」と評価。BCN+R(2023年2月6日)の木村ヒデノリ氏は「木に彫刻する場合は煙がかなり出るので、屋外でやったほうが良い」「焦げ臭いニオイがきつい」と実用上の注意点を率直に指摘している。公式サイトのレビュー欄にも「初期設定のまま彫刻して、少し焦げました。火力の調整が必要です」という声がある。
関税・消費税の自己負担。キャンペーンページに「リターン価格には消費税・関税が含まれません」と明記されている。エントリーセットが79,990円〜である以上、免税枠(16,666円以下)には収まらず、ほぼ全支援者に追加負担が発生した計算になる。
応援したいポイント
LP2の最大の美点は、製品がちゃんと届き、ちゃんと動き、しかもメーカーが5年経った今も事業を拡大し続けていることだ。クラウドファンディング発のガジェットでこれが言えるケースは驚くほど少ない。
BCN+Rの木村ヒデノリ氏が「このコンパクトさでここまで実用的なのは凄い」「一家に一台あってもよいと思えるレベル」(2023年2月6日)と評したように、ハードウェアとしての完成度は当時のポータブル機として突出していた。4cm四方の彫刻が1分少々で完成する速度感、スマホアプリからBluetoothで手軽に操作できるワークフローは、「レーザー加工=業務用」という心理的ハードルを下げた功績がある。
Trustpilotで★4.8(780件、2026年4月時点)という数字も、ガジェット系クラウドファンディング企業としては異例の高さだ。日本国内に体験拠点を設けるなど〔公式サイト情報〕、売りっぱなしではないアフターサポートへの投資も評価できる。
比較・代替案
LP2のCAMPFIRE支援価格(79,990円〜)に対し、現在の通常販売価格はバンドルにより83,000〜110,000円前後〔2026年4月時点・価格.com調べ〕。5年前の「先行割引」は実質数千〜3万円の差だったことになる。いま同じニーズを満たすなら、選択肢は格段に広がっている。
LP2の直系後継であるLaserPecker LP2 Plusは10W出力にアップグレードされ、より深い彫刻と高解像度に対応する。LP2ユーザーからの乗り換え先として最も自然な選択肢だ(約110,000〜144,800円)。ガルバノ式の直接競合ではxTool F1が赤外線+ダイオードのデュアルレーザーを搭載し、LP2の弱点だった金属本体への直接マーキングにも対応する(約120,000〜180,000円)。予算を抑えたいならGenmitsu Jinsoku Z4がLP2と同等の5W・0.05mm精度で50,000〜70,000円と手頃だ。
まとめ
LaserPecker 2は、クラウドファンディング発のガジェットとして模範的な成功例だ。ハードウェアの完成度は高く、出荷後5年を経てなおメーカーが事業を拡大し続けている点は、クラファン発ガジェットとして異例の実績といえる。キャンペーンの「事実上すべてのものに彫刻できます」は前述のとおり技術的に不正確であり、ソフトウェアの評判もハードウェアほど良くはないが、製品として支援者の期待を大きく裏切るものではなかった。
ただし、すでに量産済みの製品をCAMPFIREで「応援購入」として展開した構図は、プラットフォームの趣旨とのずれがある。これはLaserPecker固有の問題というより、日本のクラウドファンディング市場に構造的に存在するパターンだ。
いま中古で検討している人へ。LP2の中古は30,000〜60,000円前後で流通しているが、レーザー出力の経年劣化とソフトウェア対応(旧アプリは更新停止済み、Design Spaceアプリへの移行が必要)を確認すること。付属のゴーグルと保護シールドが揃っているかも重要——レーザークラス4製品であり安全装備なしの使用は危険だ。動作確認ができない個体は避けたい。
これからレーザー彫刻機を買いたい人へ。LP2と同じポータブル・ガルバノ式なら、後継のLP2 Plus(10W、約110,000円〜)か、金属対応が必要ならxTool F1(デュアルレーザー、約120,000円〜)。予算重視ならGenmitsu Jinsoku Z4(約50,000円〜)が同等スペックで手頃。2021年のLP2を今あえて新品で買う理由は薄い。
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Alex Ishiguro
編集長
MakuakeやCAMPFIREで話題になった商品の「その後」を追うメディアを運営。約束されたものが実際に届いたのか、消えてしまったのかを記録する。
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