Makuake歴代1位、応援購入総額622,769,100円(約6億2,277万円)。2021年春、チェーンを持たない折りたたみ電動アシスト自転車「HONBIKE HF01」がその記録を打ち立てた。グッドデザイン賞ベスト100選出〔確認済〕、東京ガールズコレクションでデヴィ夫人がランウェイを走る演出、地上波での露出。話題性だけなら文句なしだった。
だが、自転車専門メディア「シクロライダー」は実走テストの末にこう書いた——「シクロライダー史上最悪の電動アシスト自転車」。この落差だけでも十分だが、本当の問題はプロダクトの外側にあった。キャンペーン運営会社の代表者は、Makuake開始の約8か月前から仮想通貨投資スキームを走らせていたのだ。
なお、2021年後半には第2弾キャンペーン(和柄モデル)も実施されているが、本稿では第1弾に絞って検証する。
プロダクト概要
HONBIKE HF01は、中国・HONGJI(洪記両輪)が設計したチェーンレス電動アシスト折りたたみ自転車だ。最大の特徴は、チェーンの代わりにクローズ式シャフトドライブを採用した駆動系。フォークとスイングアームを片持ち(片側支持)構造にすることで、チェーン外れや衣服の巻き込みと無縁の乗車体験を実現した——少なくとも設計思想としては。
日本ではClick Holdings株式会社が正規代理店を務め、2021年4月12日〜6月29日のMakuake第1弾キャンペーンで622,769,100円を集めた〔確認済〕。支援価格は超特別早割の**¥99,800から一般割引の¥153,000まで複数のティアが用意され、一般販売予定価格は¥288,000**と設定されていた。型式認定は2021年5月に取得済み〔確認済〕、PSE認証も取得している〔確認済〕。
アシスト制御にはジャイロスコープを使った傾斜検知が組み込まれ、坂道で自動的に出力を上げる設計とされていた。折りたたみは2ステップで完了し、キャンペーンページでは「スーツケース程度のサイズになる」と訴求していた——ただし車体重量は約21kgあり、その表現にはかなりの楽観が含まれている。
クリエイター・プロフィール
販売元のClick Holdings株式会社は2018年6月設立、資本金1億3,000万円〔確認済〕。東京都渋谷区に登記され、中国産モバイルゲーム(荒野行動、放置少女など)の日本向けマーケティングを手がけていたとされる。クラウドファンディングの実績はなく、キャンペーンページ自身が「クラウドファンディングでの実績はありませんが…」と明記していた〔確認済〕。
代表取締役だった半沢龍之介氏は、中国・武漢出身で21歳で来日し帰化した人物〔確認済:週刊新潮(デイリー新潮2021年11月)、現代ビジネス2023年2月〕。「半沢龍之介」の名はドラマ『半沢直樹』の姓と芥川龍之介の名を組み合わせたものとされる〔確認済:現代ビジネス2023年2月〕。同氏は2022年8月に代表を退任〔確認済:現代ビジネス2023年2月、NetIB-News 2023年10月〕。後任の経営陣は十数億円規模の使い込みがあったと主張しており、民事・刑事での法的措置を準備していると報じられている〔確認済:報道に基づく。半沢氏側の反論は確認できていない〕。
市場背景
2021年の日本は、コロナ禍で自転車需要が急伸した真っ只中にあった。通勤の「密」を避けたい層が電動アシスト自転車に流れ、市場は大幅に拡大していた〔要検証:具体的な成長率は未確認〕。ただし国内大手——ヤマハ、パナソニック、ブリヂストン——の製品はチェーン駆動の実用車デザインが主流で、「見た目で選びたい」という層の受け皿は乏しかった。
そこに刺さったのがHONBIKEだった。シャフトドライブの未来感、ミニマルな片持ちフレーム、そしてMakuakeという「新しいモノ好き」が集まるプラットフォーム。Click Holdingsは中国メーカーと日本市場のブリッジ役として型式認定や道交法対応を担い、TGCやテレビ露出を含む大規模PRで一気に認知を獲得した。
気になるポイント
アシスト性能と操縦安定性の問題。キャンペーンページは「5段階パワー電動アシストで、どんな急な坂道でも楽々走行」と謳っていた。しかしシクロライダーの実走レビューは、アシスト力がほぼ体感できないレベルだったと報告しただけでなく、短いホイールベースと後輪への荷重偏りによる直進安定性の欠如、独特な形状のサドルによる乗車姿勢の問題も指摘している〔主張と矛盾〕。さらに折りたたみ機構付近でリアブレーキのワイヤーが断線しやすく、内装式ケーブルルーティングのため交換にはシマノのタンデム用特殊ケーブルが必要になるという整備性の深刻な問題も報告されている。「史上最悪」の評価はアシスト不足だけを理由にしたものではなかった。
防水性能の自己矛盾。スペック欄では「防水性はIP65」と記載されている一方、同じキャンペーンページのQ&Aでは「圧力がかかるような環境での使用はしないでください」「正常に自転車に取り付けられた状態で雨がかかる程度の水」と説明している。IP65は噴流水への耐性を意味するが、Q&Aの説明はIPX4(飛沫防水)相当の内容だ。同一ページ内でIP65とIPX4相当の説明が併記されており、スペックの自己矛盾が確認された〔矛盾する情報あり〕。
代表者による仮想通貨スキームの先行運営。半沢龍之介氏はMakuakeキャンペーン開始の約8か月前から「Be Gaming Station(BGS)」という仮想通貨ベースの投資スキームを運営していた。BGSのゲームプラットフォームは2020年8月1日にグランドオープンしており、それ以前から東京でセミナーを開催し投資者を募っていた〔確認済〕。デイリー新潮(2021年11月)によれば、BGSはMLM(マルチレベルマーケティング)構造で5,000人超から80億円以上を集めたとされる。BGSの公式ECサイト(bgs-shop.com)ではHONBIKE本体が販売されており、クラウドファンディング製品と投資スキームが事業として直結していた〔確認済〕。さらにBGSの勧誘資料では、半沢氏のマーケティング実績——HONBIKEやMakuakeでの成功を含む——が投資の信頼材料として前面に打ち出されていた〔確認済〕。Makuake支援者がこの関係を認識していた可能性は低い。
アフターサービスの消滅。2021年4月に開設された六本木フラッグシップストアは2022年までに閉店〔確認済:シクロライダー2023年報告〕。SNS上ではClick Holdingsが修理対応を打ち切ったとの報告が出ている。HONBIKEのパーツはほぼ全て専用設計で、一般の自転車店では対応できない。代表退任後に組織された「BGS Support System」も2023年9月30日に解散し、投資者への資金回収も断念された〔確認済:NetIB-News 2023年10月〕。なお、シクロライダーによれば後継として「ホンバイクジャパン株式会社」が事業を引き継ぐとの情報もあるが、法人登記の確認は取れていない〔未確認〕。
応援したいポイント
シャフトドライブという設計思想。チェーンレス+片持ちフレームという駆動設計は、e-bikeの世界で類を見ないアプローチだった。BMWの二輪車がシャフトドライブを採用しているように技術としての筋は悪くない——ただし大型二輪と折りたたみ自転車では設計上の制約が大きく異なる。2020年のグッドデザイン賞ベスト100に選ばれたのはHONGJI社の工業デザインに対してだが〔確認済〕、「チェーンのない自転車」というビジョンが多くの支援者の想像力を刺激したのは事実だ。
支援価格帯の説得力。¥99,800〜¥153,000という価格帯は、当時の国内大手電動アシストと重なっていた。「未来的なデザインを大手と同じ値段で」という訴求は確かに魅力的だった。問題は、その約束を支える実行力と誠実さが伴わなかったことにある。
比較・代替案
HONBIKEに惹かれた層が本当に求めていたのは「メンテナンスの手間が少なく、見た目がよく、通勤に使えるコンパクトe-bike」だろう。いま確実に手に入る選択肢を並べてみる。
ヤマハ PAS CITY-Xは20インチ小径タイヤのシティ向けモデル。チェーンはあるがフルカバー仕様で汚れにくく、ヤマハの国内サービス網が最大の安心材料だ。
パナソニック ベロスター・ミニは外装7段変速でスポーティに走れる20インチモデル。パナソニック製バッテリーの信頼性と全国の販売店サポートが強み。
ブリヂストン アシスタファインミニは「走りながら自動充電」機能を搭載した20インチ小型モデル。中古市場にも流通しており、予算を抑えたい人の選択肢になる。
TRANS MOBILLYは折りたたみに特化した軽量電動アシスト。車のトランクに積みたい人には最も現実的な一台だ。
デザイン性を最優先するならMATE X 250(matebike.jp)も候補に入る。ファットタイヤの存在感は圧倒的だが、価格帯は¥250,000〜¥300,000とHONBIKEの一般販売予定価格に近い水準になる。
まとめ
性能・操縦安定性・ガバナンス・サポートの四重の問題を抱えた案件だった。デザインが持っていた可能性と、それを届ける側の実態とのギャップ——そこにこの案件の核心がある。
全支援者への配送完了については独自に確認できていない。Click Holdingsの現在の法人登記状況についても未確認である〔未確認〕。
いま中古で検討している人へ——HONBIKEのパーツはほぼ全て専用設計であり、一般の自転車店では修理できない。公式サポートも事実上消滅している。中古購入を検討するなら、バッテリーの劣化状態、ブレーキパッドの残量、シャフトドライブの異音の有無を必ず実車で確認すること。特にリアブレーキワイヤーは折りたたみ機構付近で断線しやすく、交換には特殊ケーブルが必要になる。価格がいくら安くても、故障時に「直せない自転車」になるリスクを織り込んだうえで判断してほしい。
これからe-bikeを買いたい人へ——通勤用途ならヤマハ PAS CITY-Xかパナソニック ベロスター・ミニが堅実だ。折りたたみ性能を重視するならTRANS MOBILLYを。いずれも全国に販売・修理拠点があり、「乗り続けられる」という最も基本的な条件を満たしている。
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Alex Ishiguro
編集長
MakuakeやCAMPFIREで話題になった商品の「その後」を追うメディアを運営。約束されたものが実際に届いたのか、消えてしまったのかを記録する。
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