手のひらから飛び立ち、勝手に自分を追いかけて撮ってくれる。しかも99g、免許不要——そう聞いたとき、多くの人が「嘘でしょ」と思ったはずだ。2022年の航空法改正で100g以上のドローンが登録制になり、押し入れに眠らせた機体を持つ人は少なくない。その「99gの壁」をピンポイントで突いてきたのが、HOVERAir X1 Smartだった。
Makuakeキャンペーンが2024年4月20日に終了してから、ちょうど2年が経った。カメラタグ歴代1位を記録したとされ〔メーカー公称——ZERO ZERO ROBOTICS発表、2024年5月〕、配送もほぼ予定通り。翌5月にはAmazon・楽天で一般販売が始まり、いまも普通に買える。つまりこれは、クラウドファンディングとしては「成功例」に分類される案件だ。だからこそ聞きたい——あの熱狂は、中身を伴っていたのか。
プロダクト概要
HOVERAir X1 Smartは、中国・Zero Zero Robotics社が開発したパーソナル飛行カメラだ。海外で先行販売されていたHOVERAir X1(125g)をベースに、折りたたみ機構を取り除くことで99gまで軽量化した日本市場専用モデルである〔確認済〕。本稿で検証するのは、このX1 Smartを対象としたMakuake単独キャンペーンについてである。
カメラは2.7K/30fps対応で、ホバリング、フォロー、ズームアウト、オービットなど5種類以上の自動撮影モードを搭載。リモコン不要、手のひらから離着陸できる。折りたたみ不可になった代わりに、航空法上の機体登録義務を回避できる——これが最大の訴求ポイントだ。
Makuakeでの応援購入価格は一般販売価格の最大30%OFFとされ、推定で4万円台前半から〔未確認——リターン価格一覧はWayback Machineで取得不可〕。一般販売は基本セット59,980円からオールインワンセット74,980円まで4段階で展開されている〔確認済〕。
クリエイター・プロフィール
開発元のZero Zero Roboticsは2014年設立、スタンフォード大学博士課程出身のMQ WangとTony Zhangが共同創業した〔確認済——IEEE Spectrum 2024年7月、FinSMEs 2016年4月〕。累計約8,000万ドル(約120億円)の資金調達実績があり、投資家にはIDG Capital、Anker Innovationsなどが名を連ねる〔確認済〕。2016年にはApple Store全店でデモ展示された初代Hover Camera Passportを発売、Kickstarterでは後継機Hover 2で100万ドル超を調達し配送まで完了している。
一方で順風満帆ではなく、大手企業との提携頓挫や従業員150人から50人への縮小という苦境も経験している(IEEE Spectrum 2024年7月インタビュー)。ガジェット系CFクリエイターとしては異例に高い実績と信頼性を持つが、華やかな経歴の裏に浮き沈みがある会社でもある。なおMakuake上のプロジェクト実行者はマーケティング代行のMadSpace Japanで、アフターサービスはZero Zero Robotics本体が担当している〔確認済〕。
市場背景
2022年6月の航空法改正が、この製品の存在意義を決定づけた。100g以上のドローンが機体登録・リモートID搭載義務の対象になったことで、趣味で飛ばしていた層の多くが事実上の撤退を余儀なくされた。登録手続きや飛行許可の煩雑さは、週末にちょっと空撮を楽しみたいだけの人にとっては致命的だった。
この「99gの壁」を超える製品を、DJIですら出していなかった。Ryze Tech Telloは80gだがHD画質止まりで追尾機能もない。HOVERAir X1 Smartは2024年3月の発売時点で、99g以下・AI追尾・2.7K対応という条件を満たす唯一の選択肢だった。競合不在のニッチ市場を、規制の隙間から正確に突いた製品設計と言える。
気になるポイント
「AI飛行カメラ」の中身。キャンペーンページは「AI」を全面に押し出し、「自分だけのAI専属カメラマン」と謳う。実態はQualcommチップによる顔認識・被写体追尾と、あらかじめプログラムされた飛行パターンの自動実行だ。CEOのMQ Wang自身がIEEE Spectrumのインタビュー(2024年7月)で、自社をAIハードウェア企業とは呼ばないと認めつつ、AIは活用していると語っている。コンピュータビジョンと機械学習ベースの技術である以上、「AI」と呼ぶこと自体は技術的に不当ではない——DJIのActiveTrackも基盤技術は類似している〔確認済〕。ただし「AI専属カメラマン」という比喩が喚起するイメージと、実際のセンサーベース追尾との間にはギャップがある。誇張を含むマーケティング表現であることは意識しておきたい。
「免許不要=どこでも飛ばせる」ではない。99g未満で航空法上の機体登録が不要なのは事実だ〔確認済——drone-journal.impress.co.jp 2024年3月〕。しかし小型無人機等飛行禁止法(国会周辺、原子力施設等)は適用されるし、都立公園をはじめ自治体条例で飛行禁止のエリアも多い。キャンペーンページは免許不要の手軽さを強調する一方、飛行禁止エリアの説明は控えめだ。この情報不足は実際に購入者の戸惑いとして表面化している。
支援者の声に見える戸惑い。楽天市場の当該商品ページ購入者レビュー(2024年6月)では「どんな所では飛ばして良くてどこはダメなのかまだ良く分からないので、飛行させて良い場所、ダメな場所が説明書等でもう少し分かりやすく教えて貰えると安心して飛ばす事が出来るのになぁ」という声がある。一方、Amazonレビュー(2024年6月、レビュワー個人評価★4.0)では「以前ドローン購入して間もなく現在の法規制になってしまい従来のドローンは部屋の置物に。今回法規制外で遊べて実用的かなと思い購入しました」と、まさに規制逃れのニーズで購入した層がいることがわかる。Photo of the Lifeブログ(2024年5月、Makuake購入者)は「スマホアプリでの手動制御操縦は物理的なキーやパッドの様な指掛かりが無いので操作感がイマイチだ」と、自動撮影以外の使い勝手に不満を示している。
Makuakeの「応援購入」としての正当性。これはSwitchBot K10+の記事でも指摘した構造的な問題だ。Zero Zero Roboticsは累計120億円の資金調達を受け、前モデルを世界で10万台以上売り、CES受賞歴もある。クラウドファンディングで「リスクを共有する」必要のある会社ではない。キャンペーン終了からわずか1ヶ月後にAmazon・楽天で一般販売が始まっている事実が、実態を物語っている。先行割引セール+マーケティングチャネルとしての利用であり、製品リスクは低いが「応援購入」の建前との乖離はある。
バッテリー持続時間は約10分。ユーザーレビューで繰り返し指摘されている実用上の制約だ。楽天市場の購入者レビュー(2024年6月)でも「ケチらないで追加のバッテリーもセットで買えばよかった」と書かれている通り、追加バッテリーは事実上の必須出費。基本セット59,980円に加えて予備バッテリーの費用を見込む必要がある。
応援したいポイント
ドローン挫折組の救済装置。ケータイ Watchのスタパ齋藤氏(2024年7月)は過去に30万円以上投資しながら一度も飛ばせなかったドローン体験を引き合いに出し、X1 Smartがその苦い記憶を払拭してくれたと評価している。単なるスペック上の優位性ではなく、体験設計の勝利だ。
配送の正確さ。キャンペーン終了から6日後に製品が届いたという報告(Photo of the Lifeブログ)もあり、CF案件としては異例のスピードだ。深刻な品質問題や配送トラブルの報告はほぼ見つからない。
アフターサポートの本気度。2025年からは日本限定の「バッテリーケア」サービスを導入し、水没・落下を含む過失によるバッテリー故障でも購入後18ヶ月以内なら無償交換対応としている〔確認済——jp.hoverair.com〕。アフターサポートまで含めて日本市場へのコミットメントが見える。
比較・代替案
「今すぐ第三者視点の映像を撮りたい」なら、選択肢はドローンだけではない。以下の価格はいずれも2026年4月時点の参考価格である。
HOVERAir X1 Smart自体は現在も楽天・Amazonで一般販売中だ。頻繁にクーポン割引があり、実質5万円前後で入手できることも多い。急いでなければセールを待つのが賢い。
飛行制限を気にしたくないなら、Insta360 GO 3S(約50,000〜65,000円)という選択がある。アクションカメラ+見えない自撮り棒で「第三者視点」を疑似的に実現でき、公園だろうがビーチだろうが場所を選ばない。4K対応で画質面でもX1 Smartを上回る。
まずドローンを試してみたいだけなら、Ryze Tech Tello(約12,000〜15,000円)が入門機として堅実。80gで登録不要、ただしHD画質で追尾機能はない。
まとめ
HOVERAir X1 Smartは、日本の航空法規制が生んだニッチ市場を正確に射抜いた製品だ。99gという重量制限の中で2.7K撮影と被写体追尾を実現し、キャンペーンから一般販売まで大きなトラブルなく展開した実行力は評価に値する。
売り方の誠実さには疑問が残る——応援購入の建前、AI表現の過剰さ、飛行制限の説明不足と、いずれも製品ではなくコミュニケーションの問題だ。ただしこれらは「良い製品の売り方が誠実でない」という次元の話であり、製品の信頼性自体を損なうものではない。
いま中古で検討している人へ。X1 Smartは一般販売が継続中で、中古を選ぶ価格メリットは小さい。セール時なら新品が実質5万円前後で買えるため、バッテリーケアの保証が効く新品購入を勧める。中古で買う場合はバッテリーの劣化状態(飛行時間が極端に短くないか)と、ファームウェアが最新版に更新されているかを必ず確認すること。
これからHOVERAir X1 Smartを買いたい人へ。飛行場所の制約を許容できるなら、X1 Smartは現時点でも99g以下で唯一の実用的な選択肢だ。ただし「どこでも飛ばせる」わけではない点を購入前に理解しておくべきだ。飛行制限を一切気にしたくないならInsta360 GO 3Sが候補になる。バッテリー持続時間の短さを考慮し、購入時は追加バッテリー付きセットを選ぶのが現実的だ。
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Alex Ishiguro
編集長
MakuakeやCAMPFIREで話題になった商品の「その後」を追うメディアを運営。約束されたものが実際に届いたのか、消えてしまったのかを記録する。
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